米国特許ニュース

掲載日 2015年07月08日


Ⅰ.パテントトロール対策のために特許訴訟手続きを根本的に変える上院案S.1137、上院司法委員会は6月4日に可決、当事者系及び登録後レヴュー手続きを大幅に改正する案が入る


下院案H.R.9は訂正無しで下院司法委員会は6月11日に可決

両院案の骨子はほぼ共通しているが、内容はかなり異なる


1. 概略


a. 上院案S.1137

パテントトロール対策を盛り込んだ上院案のS.1137は2015年4月29日の原案を6月4日に若干修正、追加して司法委員会が了承した。主な修正点は、(1)285条の弁護士費用は、敗訴当事者が個人発明家や大学の場合には認め難くする、(2)当事者系そして登録後レヴューの審査基準を連邦裁判所で特許の無効を争う手続きと同じレベルに上げ、且つ手続きそのものを詳細に規定する、という2点である。


これは、個人発明家や、学会はより強く保護されるべきであるということと、2つのレヴュー手続きで特許が無効にされ易くなっていることに不満のあるバイオ・薬品・学会が、改正を求めたことから追加された修正案である。パテント・トロール対策案で特許訴訟が提起し難くなることから、逆に特許を強化する修正規定を上院が妥協で追加したといえる。


上記の2つの修正点をより具体的に示すと以下の通りである。

  1. 285条の弁護士費用は訴訟対応がアンリーズナブルな場合には認めなければならないものの、発明家や高等教育機関に不当な経済的打撃を与える場合は認めない。
  2. 2つのレヴュー制度を以下の点で修正する。
    • クレーム解釈は、(1)特許クレームは、裁判所で用いられる有効の推定を適用して通常の意味に解釈し、(2)補正クレームは最も広いリーズナブルな解釈(これは従来通りの基準)で行う。
    • 裁判所が既に先行技術とクレーム解釈を行っていた場合は、特許庁はそれらを参酌しなければならない。
    • あるクレームに対して特許侵害訴訟を提起されていた場合は、それから1年以内にそのクレームについてレヴューを要求しなければならない(他のクレームにはその制限はない)
    • レヴュー手続きのあり方そのものを詳細に規定

以上の修正規定の一部は、下院のイノベーション法にもないプロ特許的新しい修正規定である。


これは特許訴訟を提起し難くするパテント・トロール法案に反対するプロ特許派(バイオ・薬品・個人・学会)主張を取り入れて盛り込まれた改正点であり、それだけ上院案はプロ特許派も、特許適切化派(情報・その他)も賛成し易い法案になったといえる。
http://judiciary.house.gov/_cache/files/4723a430-8a79-4569-b3c8-68e7d828e2a3/goodla-028-xml---managers-substitute---june-9-2015.pdf


b. 下院案H.R.9

一方、下院H.R.9は訂正無しで司法委員会は6月11日に可決した。このH.R.9は2015年5月に発表した内容とはかなり異なっており、最初の提案以来相当修正された案が、そのまま可決されている。
http://www.judiciary.senate.gov/imo/media/doc/S.%201137%20Redline.pdf


2. 両院案の共通点


ともあれ、両案は下記の点を改良する点で共通している。

  1. 訴状に訴訟請求原因、イ号、侵害分析等を詳細に記載する(ITC訴状のように詳しく記載しなければならないため、闇雲なトロール訴訟は激減しよう)。
  2. 敗訴者の訴訟行為がリーズナブルでない場合は、弁護士費用を支払わなければならない(shall awardなので現行法のmay awardとは根本的に変わる)。
  3. いい加減な要求レターに対する制裁的措置(故意侵害とのバランス)。
  4. 特許移転・譲渡を米国特許商標庁に登録させる(真の特許権者を常に明確にさせる)
  5. 弱小顧客を特許訴訟から守る(弱小顧客をトロール訴訟から守る)
  6. 当事者系レビューと登録レヴューでの立証基準を訴訟の基準に高め、その分特許を無効にし難くする。(上院案は更にレヴュー手続きのあり方を変える案を示している)。
  7. AIA特許法のその他の部分を改正(誤記の訂正程度が多い)。

つまり、上院下院ともにいい加減なパテント・トロール訴訟を阻止し、糾弾するための法案であるが、プロ特許派(バイオ・薬品・学会・個人発明家)の反対を考慮して、2つのレヴュー制度での特許無効化を困難にさせることでバランスを図っている。


ともあれ、上記の規定の文脈については、両院の提案の内容はかなり微妙に異なっている。


3. 両院案が特に異なる点


異なる点の概略は以下の通りである。


(1)訴状に訴訟請求原因、イ号、侵害分析等を詳細に記載する:281条A

  • 下院案にはトロール原告の特許に関する権限の有無に関する§3(a)の281条A(a)(7)、そしてビジネス状態(生産活動を行っているか否か)等を訴状に記載させ、トロール原告の実態を明らかにさせる§4の290条(b)(1)があるが、上院案にその規定はない。
  • 下院案には真の利害関係者を強制参加させる§3(c)にあり、またクレーム解釈のために早期ディスカバリーを行う§3(d)規定があるが、上院案にはない。
  • 上院案には訴状の記載が不充分なカウントは却下になると§3(b)の281条A(b)に規定しているが、下院案にはない。

(2)弁護士費用の強制

  • 上院案§7:裁判所は敗訴者の訴訟行為が客観的にリーズナブルであるかをまず決定し、次に客観的にリーズナブルでない場合は正義公正に反しない限り弁護士費用を認めなければならない、と規定
  • 下院案§3(b):裁判所は、敗訴者の訴訟行為がリーズナブルに正当化できないか、あるいは正義公正に反する特殊事情がない場合は弁護士費用支払いを認めなければならない、と規定

(3)いい加減な要求レターに対する制裁的措置

  • 上院案§8、§9:要求レターについて、§8は要求レターに記載すべき情報(特許番号、クレーム、イ号等)の規定、§9は悪意の要求レターは民事責任となると規定
  • 下院案§3(e)、(f):いい加減な要求レターは、(e)は例外的に悪質と考え、また(f)後に故意侵害の証拠にならないと284条(c)に追加して規定

(4)特許譲渡を米国特許商標庁に登録させる

  • 上院案:§10(a)で261条Aを追加し、特許の移転登録を米国特許庁へ登録し、登録しなかった場合は損害賠償や弁護士費用を得られず、勝訴者に弁護士費用を支払わなければならないと規定
  • 下院案:§4(d)で290条(d)として類似の規定

(5)弱小顧客を特許訴訟から守る

上院案、下院案伴にイ号技術を提供している製造業者の同意があれば、製造業者が訴訟を行い、被告である弱小顧客の訴訟は中断する規定であるが、規定の内容は微妙に異なっている


(6)当事者系レビューと登録後レビューの改正

  • 上院案は§11で両レヴューの手続きのあり方を大幅に改正しているが、下院案では以下の点のみの改正である。
  • 両院案、下院案はともに、登録後レヴューでのエストッペル事項から、「リーズナブルに提起できた事項」を除外する規定を有している
  • 下院案では2つのレヴューの請願は、投機目的ではない時に許可されるという313条と323条の改正点があるが、上院案にはない

4. 今後の見通し


両院案ともに司法委員会を通過したので、後は両院がそれぞれ認めるか否かである。下院のイノベーション法の前会期の原案は2013年暮に圧倒的多数で可決されていたので、今会期の法案も早急に可決される可能性が強い。上院案もそのような下院案の様子を見て今年初めて提案されたので、可決される可能性は十分あろう。しかし、学会は自身の特許を登録後レビューから外すように議会に働きかけているので、両院案はたとえパスしたとしても更に修正される可能性はある。


もし、両院案がこの秋頃までにともにパスすると、両院案を互いに修正して統一するか、いずれかの院が他院案を認めるかして統一され、大統領がサインすれば成立することになる。


両法案はトロール訴訟に悩む情報産業がプッシュしている法案であるが(下院案はグーグル法案とも呼ばれている)、情報産業は共和党を支持しており、2014年の選挙で両院ともに共和党が多数党になったため成立の可能性は高いとみられている。


また、実際の施行は、大統領がサインして発効した後に、米国特許庁は1年以内に施行規則を作成しなければならず、施行規則施行日後に提起された訴訟やレヴューの請願に適用されると規定しているので、2016年秋頃以降の2つのレヴュー請願や訴訟に適用されることになる。


新しいレビュー制度では特許を無効にし難くなるので、もし大統領が今年の秋頃にサインすると、その後から2016年秋頃の実施の前の間に大量のレヴュー請願が駆け込みで行われる可能性がある。



添付資料1. 下院「イノベーション法」と上院「米国能力と起業精神を守る法」の比較一覧表
H.R.9 イノベーション法 S.1137  米国能力と起業精神を守る法
§1:「Innovation Act (改革法)」 §1:Protecting American Talent and Entrepreneurship Act
§2:DirectorとOfficeの定義 §2:DirectorとOfficeの定義(同一)
§3:特許侵害訴訟:281条Aの追加 §3:特許侵害訴訟:281条Aの追加
§6(c):地裁訴状の新しいFORMを作成 (a)地裁訴状のForm18の撤廃(ほぼ同一)
§3 (a):訴状の記載の詳細化:281条Aの追加 (b)訴状の記載の詳細化:281条Aの追加(ほぼ同一)
§3 (b):訴訟費用支払いの強制化:285条 §7:費用とその他の経費:285条: (若干異なる)
§3 (c):真の利害関係者を強制参加:299条(d)の追加 なし
§3 (d):ディスカバリーの中断:299条A §5、ディスカバリーの制限:299条A(類似)
§3 (e):例外的悪質の議会の認識 なし
§3 (f):いい加減な要求レターは、故意侵害の証拠にならず:284条 §9要求レターの濫用:299条D(異なる)
§3 (g):裁判地 なし
§4:特許権者の実体の透明性:290条 §3(b)、28条(B)
(b)イニシャル・ディスクロージャー §3(b)、28条(B)初期段階の開示(類似)
(c)開示条件(株式会社、非株式会社の場合等) §3(b)、281条B、(c)金銭的利害関係者の開示(類似)
(d)特許譲渡を90日以内に米国特許庁へ登録する §10、261条A、(b)(類似)
(e)定義 §10、261条A、(a)(異なる)
§5:弱小顧客の訴訟中断の例外:296条 §4:弱小顧客訴訟の中断:299条A
(a)定義 §4(a):(同一)
(b)中断の適用の仕方 (b)中断のモーション(類似)
(c)中断の撤回 §4(d)(類似)
(d)271条(e)の訴訟にはこの例外規定を適用しない なし(§3、(f)にあり)
(e)製造業者の同意判決の例外 なし
§6(a):ディスカバリー適正化のルール作り §6(a):ディスカバリーの適正化ルール作り
なし(但し、下記§9(a)、(b)がある) §11:当事者系と登録後レヴューの大幅修正(下院案になし)
§6(e):破産時の知的財産の保護 §12:破産時の知的財産の保護(同一)
§7:中小企業の特許教育援助 §13:中小企業の特許教育(ほぼ同一)
§8:特許取引き、政府特許、要求レター等の調査と報告 §14:特許取引、質、審査の研究(異なる)
§9:AIA特許法の改正 §15: AIA特許法の改正
(a)登録後レビューのエストッペルから「リーズナブルに提起できた事項」を削除 §15(a): (同一)
(b)両レビューでは訴訟のクレーム解釈を用いる §11(a)、(b): (同一)
(c)106条:AIA特許のダブルパテントはターミナル・ディスクレーマで回避できる なし
(d)ビジネス方法特許登録後レビューの先行技術は従来法102条(a)及び(e) §15(b): (同一)
(e)特許期間調整の154条(b)(1)(B)の改正 なし
(f)特許効力に統一性を求める議会の認識 なし
(g)特許訴訟には特定の地裁判事を宛がう期間を20年間 なし
(h)AIA特許法中の誤記の訂正(非常に多数あり) (ほぼ同一)
注:原案を修正して委員会がそのまま可決
注:赤い枠・太字部分は委員会が可決時に修正

Ⅱ.AIA 特許法102条(b)の公表による例外の不明確な点を明確にする改正案


H.R. 1791 Grace Period Restoration Act of 2015
114th Congress 1st Session 下院法案 2015年4月14日

https://www.congress.gov/114/bills/hr1791/BILLS-114hr1791ih.pdf

S.926 Grace Period Restoration Act of 2015
114th Congress 1st Session 上院法案 2015年4月14日

https://www.congress.gov/114/bills/s926/BILLS-114s926is.pdf


上記両院案の内容は同一である。


AIA102条によると、発明者が発明を公表し(public disclosure)、1年以内にいずれかの特許庁に出願してから(その出願日が有効出願日になる)米国特許庁へ出願すれば、グレース期間内の公表になり、自身の出願の先行技術にはならない。それだけでなく、AIA102条では、その公表後の他者の公表や先願も排除する(この点で従来法と抜本的に異なる)。


しかし、現行の102条は、(1)公表の中で、発明をどの程度まで説明(開示)し、(2)どのような形の公表にすればよいのか、そして(3)103条の自明も排除するのか、(4)出願前に公表したことをいつ米国特許庁に伝えるべきかについての明記がなく、不明確であった。


そこで、表題の上下両院の案は、(1)発明を112条(a)の規定を満足するように開示し、(2)印刷刊行物で公表する場合に上記グレース期間が発生し、且つ(3)103条も排除する、(4)出願前に公表したことを特許許可通知前までに米国特許庁に伝えると有効の推定が働くように解釈されることを明記した条文を現行の102条(b)に追加することを主目的としている。


改正条文の主要規定は以下の通りである。


102条(b)(3)(B): 下記の場合、何人かによる開示は、サブセクション(a)又はセクション103の基で、クレーム発明の先行技術にはならない。

  • (i) その開示は、クレーム発明の有効出願日前の1年以内のサブセクション(a)(1)、あるいはサブセクション(a)(2)の開示であり、そして
  • (ii) 上記(i)項に記載された開示の前で、且つクレーム発明の有効出願日の前の1年以内に、クレーム発明はカバーされる者(発明者、共同発明者等)によって印刷刊行物によって112条(a)の記載要件を満足して公表されていた場合。
改正条文の主要規定

上記追加条文をより分かり易く説明すると、(1)第三者の開示(公表・公開等 (a)(1)、先願(a)(2))が有効出願日前から1年以内にあっても(102条(b)(3)(B)(i))、(2)第三者の開示の前に発明者が有効出願日1年以内に112条(a)を満足して、印刷刊行物で公表していた場合(102条(b)(3)(B)(ii))、第三者の開示は102条(a)の新規性の点でも、103条の自明の点でも先行技術にならない、という規定である。

現行の102条(b)の規定は、以上の点は、立法の趣旨(議会での討論記録)からはそうであると解釈できるものの、規定そのものは明らかでないといわれている。そのため、連邦裁判所がどのように102条(a)、(b)を解釈するか不明であるので、その点を明確にしようとする改正法案である。


いずれにせよ、発明者が出願日前の1年以内に公表していれば第三者の開示や先願があっても確実に特許が取得できるので、AIA特許法は従来のインターフェアランスより確実に先発明者が特許を取得できる制度である。(インターフェアランスでは公表しても先発明者になるとは限らない。)


更に、両改正法案は出願前に公表した事実を特許許可通知前までに米国特許庁に伝えると有効の推定が働くように解釈されると規定している。よって、特許許可通知後あるいは訴訟になって公表の事実を証拠として提出するとそれだけ証拠能力は弱くなるのであろう。

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